ブランドを高めながら「稼ぐ」大学経営とは
文科省が推し進める「資産運用」と大学経営の苦境
現在、日本の大学経営はかつてない転換点に立たされています。少子化による18歳人口の減少、インフレによる実質的な資金の目減り、そして安易な学費値上げが許されない社会情勢。
これらの逆風の中、文部科学省と経済産業省は補助金依存からの脱却と独自財源の確保を目指し、大学に対して債券市場や証券市場への資金流入、すなわち「積極的な資産運用」※を強く促しています。
※https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/134/0006.htm
経営陣に対する受託者責任の観点からも、手元の資金をただ眠らせておくことは許されない時代となりました。米国トップ層の大学が巨大なエンダウメント(大学基金)を運用し、年間数パーセントの運用益を教育研究に還元している事例を見れば、日本でも同様のモデルを構築すべきだという議論が巻き起こるのは必然と言えます。
しかし、大学の皆様に問いかけたいのは、「金融市場での資産運用は、本当に貴学の『大学ブランド』を向上させるのか?」という根源的な疑問です。資産運用も大切な事業項目だからこそ、その疑問やリスクに対する対応、その優先順位に説明責任が必要なのではないでしょうか。

「投資がうまい大学」は社会から尊敬されるか
ここで一度、過去の教訓を振り返る必要があります。2008年のリーマンショック時、日本の名門と呼ばれる有力大学のいくつかが、デリバティブなどのハイリスクな金融商品で数百億円規模の巨額の運用損を計上し、社会的な批判を浴びました。当然、現在は各大学ともガバナンスを強化し、予防策や厳格な運用ルールを敷いています。
しかし、根本的な問題はリスク管理の有無ではなく「社会からの見られ方」にあります。
仮に、ある大学が高度な金融工学を駆使し、ヘッジファンド顔負けの運用益を叩き出したとしましょう。財務は潤うかもしれません。
しかし、受験生、保護者、あるいは共同研究を模索する企業は「あの大学は投資がうまいから素晴らしい」と評価するでしょうか。答えは?です。
大学の社会的使命は、あくまで高度な教育と最先端の研究を通じたこれからの将来を担う人材育成と社会貢献です。本業から切り離されたマネーゲームによる収益化は、大学の財務を助けることはあっても、大学の「ブランド(社会的信用・権威・憧れ)」を醸成することはありません。
むしろ、行き過ぎた運用は「学費を投機に回している」というレピュテーションリスクを常に孕んでいることも念頭に置かなくてはなりません。

利益優先でブランドを失った実社会の教訓と、真の解決策
実社会のビジネスにおいても、安易な収益獲得に進んだ結果ブランドを失墜させた事例は枚挙にいとまがありません。
1980年代後半のバブル経済期、日本の名門メーカーの多くが本業の技術開発を後回しにし、「財テク(金融工学による資産運用)」に狂奔しました。
一時的には莫大な営業外収益をもたらしましたが、バブル崩壊後、残ったのは莫大な損失と、競争力を失い陳腐化した製品群でした。
本業での価値提供を疎かにし、金融収益に依存した企業は、市場からの信頼という最も重要なブランド価値を喪失し、多くが衰退・淘汰されていきました。
また、ある世界的な高級ファッションブランドは、短期的なロイヤリティ収入を得るために、あらゆる日用品に自社ロゴの使用を許可する「ライセンスビジネス」を乱発しました。
結果として、スーパーのワゴンセールにまで自社ロゴの商品が並ぶようになり、「選ばれた人向けの高級品」というブランド価値は完全に崩壊。業績を回復させるまでに数十年の歳月と血のにじむようなブランド再構築が必要となりました。
これらの事例が示すのは、「本業の価値(コア・コンピタンス)と結びつかない収益化は、長期的には必ずブランドを毀損する」という冷徹な事実です。
では、大学が「財務体質の強化」と「大学ブランドの向上」を両立させるにはどうすればよいのでしょうか。当社が強く推奨したいのは、
「ステークホルダーの財産化」です。
具体的には以下の3つの領域を本業と連動させて収益化することです。
1.寄付(卒業生・保護者・企業・地域等との絆の収益化)
単なる「お願い」ではなく、大学が目指すビジョンへの共感を生み出すこと。卒業生が母校を誇りに思い、企業がその研究姿勢に共鳴して資金を投じるエコシステムです。
寄付が集まること自体が、「社会から支持されている大学」という最強のブランド証明になります。最近では、病院を持つ大学が患者さんをネットワーク化し成功している事例もあるのです。
2.産学連携(知の社会実装の収益化)
大学に眠る特許や研究成果、優秀な頭脳を、企業課題の解決に直結させること。共同研究費の獲得だけでなく、大学発ベンチャーの創出や知財のライセンスアウトにより、社会課題を解決しながらリターンを得ます。
3.社会人教育市場への進出(リカレント・リスキリングの収益化)
人生100年時代、企業は社員の再教育に莫大な予算を投じています。大学の高度な専門知を、社会人向けのプレミアムな教育プログラムとして提供し、高単価な収益源とする。実社会のリーダー層がキャンパスで学ぶことは、大学のプレゼンスを飛躍的に高めます。

本業の収益化が、最強のブランド構築への近道
金融市場だけに頼るのではなく、卒業生、企業、社会人という「ステークホルダー」との結びつきを深め、教育・研究という大学本来の価値を提供することで対価を得る。このプロセスを通じて得た資金は、単なる「お金」ではなく、社会からの「期待と信頼の結晶」です。
収益が上がるからこそ、より優秀な研究者を招聘し、充実した教育環境を整備できる。それがさらにブランドを高め、新たなステークホルダーを惹きつける。これこそが、真の意味での「大学ブランド向上と財務体質強化の両立」ではないでしょうか。
金融商品による利回りは一夜にして消えることがありますが、ステークホルダーとの絆によって築かれたブランドは、決して目減りしない無形資産となります。
最後に、貴学の現状を俯瞰していただくためのチェックリストをご用意しました。次なる百年を見据えた大学経営の羅針盤としてご活用ください。
大学ブランドが向上する「ステークホルダー財産化」条件チェックボックス
以下の項目にいくつチェックが入るかご確認ください。
[ ] ビジョンの共有: 寄付金募集のパンフレットが「お願い色満載」ではなく、「この研究・教育で社会をこう変える」という未来への投資(ビジョン)をわかりやすく語っている。
[ ] アルムナイ(卒業生)戦略: 卒業生を「過去の顧客」としてではなく、大学の価値を高める「生涯のパートナー」として組織化し、継続的な接点を持っている。
[ ] 産学連携の適正価格: 企業との共同研究において、下請け的な安価な受託に甘んじることなく、大学の「知の価値」に見合った正当で高い対価(間接経費含む)を要求できている。
[ ] 社会人教育の事業化: 学部生向けの延長ではない、企業の経営層や実務家が自腹を切ってでも(あるいは企業が研修費を出してでも)受講したい独自のリスキリングプログラムを持っている。
[ ] ブランドと財務の一致: 学長や理事長が語る「大学の魅力(ブランド)」と、学内が進める「収益確保の手段」の間に矛盾がなく、一本の線で繋がっている。
チェックが出来ない項目こそが、貴学に眠る最大の「伸びしろ」であり、新たな収益源泉です。具体的なマネタイズの仕組み構築については、ぜひ当社へご相談ください。また、皆様のご意見や質問が配信の励みになりますのでお気軽にメール頂ければ幸いです。