卒業生ファン化の心理学

拡大自我と大学
社会人になりたての頃、ある女性に「綺麗な方ですね」と言ったところ、「若いのにお世辞が上手いのね」と軽くあしらわれました。すると先輩社員から「君はセンスがない。大学で何を習っていたんだ?女性にストレートに綺麗だといきなり褒めるとお世辞だと思われる。それより、洋服の着こなしや身に着けている時計のセンスなどを褒めることで、結果自身が褒められている気持になってお世辞に聞こえないんだ。そういうのを拡大自我と言うんだ。営業ならよく覚えておきなさい」と指導されたのを思い出します。
卒業生にとって母校は「拡大自我」の一部となっているケースが多く、母校の出来事を自分事として捉えやすいのです。ですから母校が箱根駅伝で力走する姿に熱狂しますし、母校の素晴らしい研究に自分事の様に誇らしく思うのは、この心理から来ているのです。
この心理は、母校に限らず、長年乗り続けた車への愛着のケースもありますし、推し活で応援しているアイドルの成功を喜ぶ、自分の故郷がTVで褒められると嬉しいなどから理解いただけると思います。
この心理のベースを如何に母校愛として表に出してもらうかが大切なのです。じっと何もしなくても母校愛が醸成されるわけではなく、情報が多い現在は母校愛を醸成するためのマーケティングが大切なのです。
「私たち」意識の醸成
ある大学では、卒業生に自ら伝えたいこととしてメールマガジンを発信していますが、その中身は事務連絡であったり、リカレント教育の案内であったり、オリジナルグッズの販売であったりして、母校を誇りに思う建付けになっていない為、多分あまり反応はないと思います。
またある大学では、若い人にはアプリの時代とアプリを一生懸命宣伝していますが、コンテンツに多額のコストをかけて外部の福利厚生サービスを導入し、加入すると「お得」感を出していますが、母校愛醸成とちょっと離れてしまっています。
心理学的には、まず社会的アイデンティティ(存在証明)として、「私たち」意識を醸成していくことが重要です。卒業生に様々な大学の誇りや、世間で奮闘する卒業生(目立つ活躍だけではなく奮闘する姿への共感も大切)の姿を伝達します。今の時期でしたら、新卒業生に向けた「〇〇大学ファミリーへようこそ」といった歓迎のメッセージが大切です。慶應義塾大学なら「社中協力」、明治大学なら「明治はひとつ」「同心協力」などのメッセージを強く発信します。海外では卒業生限定のリングを用意したり、卒業生であることを示すステータスを提供することもあります。
帰属意識の強化
人は「帰属欲求」と言って、安心できる(これが大切)コミュニティに所属したいと言う欲求があります。ですから、卒業生組織が「自分の居場所」「帰ってこられる場所」と感じさせるようにすることが大切なのです。同期会、学部・学科別、ゼミ・研究室別、部活・サークル別、地域別、職種・業種別など、多様な切り口でのサブグループ(傘下組織)活動を支援し、身近なつながりを作る機会を提供することは大変効果的なのです。
最近では、これらの傘下組織を活性化させることが重要で、若年層や女性層も参画しやすいように、リアルの飲み会に拘ることなく、オンラインコミュニティが効果を高めています。
これらの心理に加えて、大学のファン化していくには、「ポジティブな感情(ノスタルジアの喚起)」を引き出すこと、「恩返し:返報性の法則」を駆使し、貢献実感を自己効力感に誘導し、「みんながやってる」効果として社会的な認知を拡大していくのですが、この話はまたリクエストを頂ければお話ししたいと思います。
そして、これらの心理的な充足の循環が出来上がった時に、参画する卒業生は間違いなく人格的にも高みに進化し、大学としても欠かさざるを得ない支持者となっていくのです。
ご興味があればお気軽にご相談ください。