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大学が直面する「ブランドの罠」

~名門企業の没落に学ぶ、ステークホルダー財産化の分岐点~

「順調な志願者数の成功」が変革の目を摘んでしまうリスク

首都圏や近郊にキャンパスを構える大学にとって、現在の志願者数は一見、安泰に見えるかもしれません。18歳人口が減少し、地方大学が定員割れに苦しむ中、首都圏への一極集中は「ブランド校」としての優位性を維持させています。しかし、その「集客の成功」こそが、最も危険な罠であることに気づかなければならないのかもしれません。

行政・経済界が求めるAI時代の人財育成、実効性を伴う社会実装が前提とされる産学連携、そして社会人のリカレント教育市場。これらはいずれも、従来の「4年間の教育サービスを切り売りする」モデルでは対応不可能な領域です。

今、大学に求められているのは、卒業生であれば卒業生を単なる「過去の在籍者」ではなく、また大学研究に興味を持ってくれる或いは求人に期待する企業群を単に「教授個人の繋がり」とするのではなく、共に大学の価値を高め続ける「無形財産」へと変える構造改革です。

立地の良さや一定の受験生確保に安心し、学内の組織構造やステークホルダーとの関係性をアップデートできない組織は、かつて市場を支配した名門企業と同じ道を辿ること可能性が極めて高いものと推察されます。没落した企業はその後運よく復活するにも大変な労力を費やしました。それでも復活出来れば良いのですが、そのまま消え去っていった多くの企業は押し並べて「あの時に着手していれば・・・・」との後悔が押し寄せるようです。 

構造改革の拒絶が招く「名門の没落」

歴史に名を残す巨大企業が、なぜ時代の変化とともに消え去ったのか。その理由は「技術の欠如」ではなく、常に「成功体験に基づいた構造の硬直化」にありました。

事例1:コダック(デジタル化への対応遅れと過去の成功体験への固執)

かつて「フィルムの巨人」として写真業界に君臨したコダックは、1975年に世界で初めてデジタルカメラを開発した技術力を持ちながら、時代の波に乗り遅れ、2012年に破産法適用を申請しました。最大の原因は、高収益な既存のフィルム事業を守ろうとする社内の力学が働き、自ら開発したデジタル技術を軽視したことにあります。市場の劇的な変化よりも、社内の既存部門の利害や、過去の成功体験に基づくビジネスモデルを優先した結果でした。

「入試」「教務」「キャリア」「校友会」が分断され、学生や卒業生の情報を一気通貫で活用できていない大学の現状は、かつてのコダックの姿と酷似しています。過去の成功モデル(一定の受験生確保と在学中の教育提供)に安住し、組織間の壁を取り払って学生・卒業生のLTV(生涯顧客価値)を高める構造改革に着手できなければ、同じような末路を辿る危険性があります) 

事例2:かつての名門百貨店業界~「駅前一等地」という不動産価値への固執

かつて「小売の王様」として君臨した日本の百貨店業界(象徴的には2000年に民事再生法を申請した「そごう」など)は、消費者の嗜好の変化や専門店の台頭、そしてインターネット通販の波に乗り遅れました。彼らには主要都市の駅前一等地にある「巨大な店舗網(立地)」という、当時としては絶対的な強みがあったからです。

しかし、顧客が求めていたのは「わざわざ百貨店に行くこと」ではなく、「多様な選択肢から自分に合うものを便利に手に入れる体験」へと変化していました。名門百貨店は、高コストな店舗維持と、場所貸し中心の旧態依然としたビジネスモデルに固執し、顧客との直接的な関係性構築やデジタル対応を怠った結果、多くの店舗が閉鎖に追い込まれ、業界地図は塗り替わりました。

「キャンパス(立地)」という資産にあぐらをかき、卒業生とのネットワークや、デジタル時代のコミュニティ形成を後回しにしている大学は、まさにこの百貨店の轍を踏んでいる可能性が高いのではないでしょうか。

これらの事例が教えるのは、「強みだと思っていた構造(立地や既存組織)が、変化の時代には最大の足かせになる」という教訓です。

「偏差値ブランド」から「ネットワークブランド」への転換

首都圏の私立大学が10年後も「選ばれる存在」であり続けるためには、卒業生や企業といったステークホルダーを「ファン」として組織化し、大学の機能を社会に拡張する必要があります。

1.「出口」を「入り口」に変える

卒業は関係の終わりではなく、産学連携やリカレント教育の「始まり」です。卒業生が企業のリーダーとして大学に還元し、大学がその知見を教育に反映させる。この循環が、大学の真のブランドになります。

2.学内OSの再構築

縦割りの事務組織を解体し、ステークホルダー一人ひとりのデータを統合管理する。それにより、寄付のお願いだけではない、個々の卒業生に最適化された価値(情報、人脈、学び)を提供可能にします。

3.「ファン化」のKPI設定

志願者数や偏差値だけでなく、「卒業生のエンゲージメント率」や「産学連携による社会実装数」を経営の指標に据えるべきです。

「ファンづくり」をしない理由は、もはや存在しないと思います。やらない理由は、単に「今のままでもなんとかなっている」という、組織の中に蔓延する「現状維持バイアス」そのものです。もし、下記診断で2つ以上当てはまるのであれば、是非ご相談ください。

【特別付録】貴学の「ゆでガエル」度診断

以下の項目に当てはまるものはありませんか?

[ ] 「うちは首都圏にあるから、志願者数は当面大丈夫だ」という空気が学内にある。

[ ] 卒業生名簿の住所が不明な割合が、全体の3割を超えている。

[ ] 卒業生組織(校友会等)の役員が固定化され、現役世代との温度差が激しい。

[ ] 産学連携と言えば「共同研究の契約数」だけで、実効性のある社会実装(事業化)が少ない。

[ ] DX(デジタルトランスフォーメーション)が、単なる「会議のペーパーレス化」に留まっている。

[ ] 企業から「卒業生の質」については評価されるが、「大学との連携メリット」は感じられていない。

[ ] 危機感を訴えても「でも、うちは〇〇大学だから(伝統があるから)」という言葉で議論が終わる。

0~1個:健全です。東京ブランドに頼らない独自の価値構築が進んでいます。

2~4個: 警告です。ブランドの貯金を切り崩して生活している状態です。今すぐ組織横断の改革が必要です。

5個以上: 非常に危険です。18歳人口の激減が東京に本格波及した際、真っ先に「没落する名門」になるリスクがあります。

私たちは、大学が持つ「ネットワーク」という眠れる財産を覚醒させる専門集団です。伝統を「維持」するのではなく、伝統を「更新」するための構造改革。その第一歩を、私たちと共に踏み出しませんか。